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小さな座敷の空気が揺れた。あからさまではないが、でも、皆、戸惑っているのは感じた。つまりは、誰にも連絡なしで、粋は山森梓を連れてきたわけだ。
「……あ、山森梓さんです。一緒に料理教室に通ってて……」
「ああ、いた! 本物だ! 寿ちゃん」
山森梓は寿を見つけると、無理矢理山原と寿の間に入ってきた。
「嬉しい、本物だ! めちゃくちゃ顔小さい、肌綺麗、腕長い! 指長い」
梓は寿の手を握ると、目を輝かせた。
「粋くんに無理を言って連れてきてもらったの! だって、寿ちゃんが来るって言うんだもの。私ね、寿ちゃんの大ファンなのよ! 本当に会えて嬉しい-」
状況把握が遅れた。いや、把握できない。
粋と同じ料理教室に通っている?
寿のファン?
それよりも、今、「粋くん」って言った?
「梓さん、お前のファンなんだって。俺、料理教室に一緒に通うまで全然知らなくてさ。今日、お前が来るって言ったら、どうしても会いたいって」
梓さんも気に食わない。寿をお前と呼ぶのも、耳に付いて、ムカついた。
粋が阿呆だと、今までに何回思ったろう。絶対に百は優に超えている。下手したら、千回も超えたかもしれない。
今も思っている。
こいつは、一週間も連絡をよこさず、山森梓と一緒に料理教室に通っていた。目の前に座った粋の得意気な表情が、さらに寿を苛立たせた。
たぶん、梓の背は女子の平均身長くらいの高さだ。手も小さくて、寿には全くない可愛らしさが梓にはある。
その上、人好きのするナチュラルで飾らない性格は、周りの男どもからもかなり高い好感度を得たように見えた。
「嘘! すごく嬉しいです! 私も山森さんの大ファンなんです。この間の御坂先輩との特集も見ました。とても妖艶で素敵でした」
ここで嫌味を言ったり、冷たく遇っても仕方がない。許諾と同意と共感が最善に思えた。
寿はにっこり笑うと、小さくて華奢な手を握り返した。
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