あり得ない初めまして 寿・現在

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「でも、寿ちゃんと付き合っていたのは知らなかった! 本当に水くさいよね、話してくれれば良かったのに」 「話さないよ」 「確かに、御坂は芹沢の話をしないよな」  自分の話をされているのに、粋の表情は、興味がなさそうだった。  粋の顔を見ながら、話さないよの意味を考えた。なんで、寿の話を皆にしないのだろう。もし、梓に寿の話をしていたら、あんな企画を持ち込まれなかったかもしれないのに。  粋と梓が知り合ったのは、雑誌の撮影でだと思っていたが、本当は違う?  粋たちのビールが運ばれてきて、乾杯をした。お酒が入ってくると、最初は警戒していた男どもも梓と打ち解けだした。 「御坂と山森さんは古い付き合いなんですか?」  突然切り出したのは、広瀬だった。  思わず広瀬の顔を見たが、特に寿を気にしているようには見えなかった。 「全然古くないよ。お前が来なかった坂井さんとの飲み会だよ、最初は」  思い当たる節があったのか、短く声を上げて広瀬が頷いた。 「あれか。Lazyの撮影依頼が来る少し前に誘われたやつか」 「そうそう、坂井くんとクラブに来て、そこで初めましてだったよね。あの時に粋くんに会って、Lazyの編集さんに相手は粋くんがいいって言ったんだ」  先輩の坂井がよく行く会員制クラブに行った帰りにあの写真を撮られたと言っていた。説明に食い違いはないが、抱き締められながら粋の声で聞くのと、隣にいる梓の口から聞くのとでは、心の感じ方が違った。  粋が会員制クラブなんて行かなければ、梓と知り合わなかった。あんな写真も卑猥な特集も目にしなくて良かった。  でも、あの写真を粋が撮られなかったら、まだ寿はニューヨークで粋を待っているだけだったかもしれない。  それは嫌だけれど、今の状況も嫌だった。粋と梓の馴れ初めなんて聞きたくない。
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