あり得ない初めまして 寿・現在

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「粋くん、めっちゃモテてたよね、あの時。こんなにモテる彼氏だと心配も尽きないね、寿ちゃん。でも、安心して、普段はちゃんと私が目を光らせるから」  言っている意味が分からなくて、何度か瞬きを繰り返して梓を見た。 「料理教室でも、モテるの。先生なんて、絶対に粋くんを狙ってるよね。でも、私が……」 「いいですよ、目を光らせたりしなくて。粋、これもう一杯飲みたい。あと、お水頼んで」  粋が寿の梅酒ソーダと空いたグラス分のビールを頼んだ。枝豆を一莢取ると、寿は梓を見た。 「モテるの悪いことではないですし、汚い格好してボケッとしてるくらいなら、全然モテてもらっていいです。皆さん、粋を狙ってどんどん誘惑してもらって、私は構わないです」  面白いぐらいに梓の目が大きく見開かれた。少し離れたところで話していた、永倉たちも会話を止めた。 「誘惑に負けたら、それは負けた粋が悪いんだし」 「いや、でもさ、男っていうのは本能みたいなので、平気で浮気するよ? 粋くんだって、可愛い子に寄り掛かられたら、絶対に流されちゃうよ?」 「いいですよ、流されても。さっきも言ったようにそれは粋が悪いんです。そうなったら、別れるだけですし」 「ええ! 別れるの? 俺と?」  粋の表情が、たぶん驚きとショックで、青白く固まった。 「粋は可愛い子に誘惑されたら流されるの?」 「流されないよ」 「流されなきゃ別れないよ」  粋が、安心したように頬を綻ばせた。 「びっくりした。なら、大丈夫だ」  寿は梓に向き直ると、微笑んだ。 「だから、目を光らせていただかなくても大丈夫です。でも、お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます」  寿の様子に、梓は声を上げて笑い出した。 「やっぱり寿ちゃんは格好いいね! 寿ちゃん以上の女の子なんてそうそういないものね、これなら粋くんも浮気しないわ」  きっと、粋以外の男たちは張り詰めた空気に息を呑んでいたに違いない。梓の笑い声で、場の雰囲気が緩んだところで、オーダーしていた酒が運ばれてきた。
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