1793人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
「粋くん、めっちゃモテてたよね、あの時。こんなにモテる彼氏だと心配も尽きないね、寿ちゃん。でも、安心して、普段はちゃんと私が目を光らせるから」
言っている意味が分からなくて、何度か瞬きを繰り返して梓を見た。
「料理教室でも、モテるの。先生なんて、絶対に粋くんを狙ってるよね。でも、私が……」
「いいですよ、目を光らせたりしなくて。粋、これもう一杯飲みたい。あと、お水頼んで」
粋が寿の梅酒ソーダと空いたグラス分のビールを頼んだ。枝豆を一莢取ると、寿は梓を見た。
「モテるの悪いことではないですし、汚い格好してボケッとしてるくらいなら、全然モテてもらっていいです。皆さん、粋を狙ってどんどん誘惑してもらって、私は構わないです」
面白いぐらいに梓の目が大きく見開かれた。少し離れたところで話していた、永倉たちも会話を止めた。
「誘惑に負けたら、それは負けた粋が悪いんだし」
「いや、でもさ、男っていうのは本能みたいなので、平気で浮気するよ? 粋くんだって、可愛い子に寄り掛かられたら、絶対に流されちゃうよ?」
「いいですよ、流されても。さっきも言ったようにそれは粋が悪いんです。そうなったら、別れるだけですし」
「ええ! 別れるの? 俺と?」
粋の表情が、たぶん驚きとショックで、青白く固まった。
「粋は可愛い子に誘惑されたら流されるの?」
「流されないよ」
「流されなきゃ別れないよ」
粋が、安心したように頬を綻ばせた。
「びっくりした。なら、大丈夫だ」
寿は梓に向き直ると、微笑んだ。
「だから、目を光らせていただかなくても大丈夫です。でも、お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます」
寿の様子に、梓は声を上げて笑い出した。
「やっぱり寿ちゃんは格好いいね! 寿ちゃん以上の女の子なんてそうそういないものね、これなら粋くんも浮気しないわ」
きっと、粋以外の男たちは張り詰めた空気に息を呑んでいたに違いない。梓の笑い声で、場の雰囲気が緩んだところで、オーダーしていた酒が運ばれてきた。
最初のコメントを投稿しよう!