あり得ない初めまして 寿・現在

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 粋がモテるとかそういう話も、梓がどれくらい粋と仲が良いとかそういう話も、もう十分だった。  しばらくして、話題は梓の次のドラマに移ったが、気持ちはもう浮上しなかった。  腹も立ってきた。  なんで、粋が浮気する前提で話されないといけないのだろう。  なんで、目を光らせておいてあげるとか言われないといけないのだろう。  こんなに言われてるのに、どうして粋は何も言わないのだろう。  怒りもしない。寿をかばうわけでもない。  疲れた。もう、駄目かもしれない。  もう少ししたら帰ろう。そう決めて、ミニトマトの串揚げを取ろうと腕を伸ばしたら、粋と目が合った。  思わず目をそらした。  あんまり、顔を見たくなかった。  何杯目かの生ビールを呷り、粋が立ち上がった。 「与井、交代だ。お前はこっち」 「ふざけんな、芹沢の隣は俺のもんだ! うわっ、やめろ!」  粋が与井の脇腹をくすぐった。悶える与井を引き摺って自分の座っていた席に連れてくると、満足げな顔をして寿の隣に座った。 「寿、串揚げうまい?」 「……うん、ミニトマトの肉巻が特に美味しいよ」 「おい、山原! 俺のビールとミニトマトの串揚げ頼んでくんねぇか」 「あ、俺も!」  与井も手を挙げた。梓の横に座っていた山原が、店員を呼ぶために席を立った。 「ね、梓さん、さっきの話は本当?」  寿を挟んで、粋が梓に話し掛けた。 「俺、料理教室でモテてるの? 先生が俺を狙ってるってマジで?」 「ええ? 気付いてなかったの? 皆、やたらメイクも濃くなってるし、先生なんて、ずいぶんとボディラインを強調した服ばかり着てきているじゃない」  粋が首を傾げた。梓の言うことがピンとこないらしい。
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