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「そうだな……。あれ? 山森さん、さっきからスマホが鳴ってませんか?」
耳を澄ますと、微かに振動音が聞こえた。
「やだ、本当だ。マネージャーが迎えに来たんだわ。ごめんなさい、これで失礼するね。お邪魔しました。粋くん、これお金ね」
梓は財布から一万円を出すとテーブルに置いた。
「いいですよ、お金いらないっす。もう会うこともないし、お釣りも返せないから」
粋の吐いた後半の言葉に、この場の全員が反応した。
「料理教室は辞めたし、クラブにももう行かないんで、梓さんと会う機会ももうないだろうし。これからはサッカーに集中したいんで、この間みたいな仕事は一切受けるつもりもないし。ここのお金は俺が払うんで、大丈夫です。今までお世話になりました。これからも、テレビ観て応援してます」
握手を求めて粋が右手を出した。
「……あ、ああ、うん、ありがとう。粋くんも頑張ってね」
「俺らも応援してます! 新しいドラマやるんですよね、頑張ってください」
山原も手を出した。なぜか、この場の男ども全員と握手をして、梓は席を立った。
「寿ちゃんとは、また会うかもしれないわね。その時は仲良くやりましょうね」
梓が手を差し出した。一緒に仕事をする機会なんてあるだろうか。まあでも、もしかしたら、あるかもしれない。
目の前の梓の顔は少し引き攣っていた。
「こちらこそ」
最後に寿と握手を交わして、慌ただしく梓は帰って行った。
「さあて、御坂。今日一日でお前が幾つ間違いを犯したか、答え合わせをしようか」
粋の前の席に広瀬が移動してきた。
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