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公開裁判 寿・現在
「さあ、芹沢。溜まった不満をこいつにぶつけていいぞ」
広瀬に言われ、寿はグラスに残っていた梅酒ソーダを飲み干し、粋に向き合った。粋は、不思議そうに瞬きをして、寿を見ていた。
「俺、何かした?」
全く自分の罪に気が付いていない。寿は粋を睨んだ。言われた通り不満をぶつけようと口を開いたが、言葉は出なかった。
「……できないです」
「頑張れ芹沢!」
与井がエールを送ってくれたが、俯いた顔を上げられなかった。
言いたいことはたくさんある。
一週間も音沙汰なしだったこと。
料理教室に通いだしたと知らなかったこと。しかもその教室は、山森梓の紹介で一緒に通っていたらしい。
今日、この飲み会に山森梓を連れて来たこと。山森梓は寿が来るから来たと言っていた。寿が来なかったら、山森梓は来なかったのか。寿がいなくても絶対に来たと、確証みたいなものが寿にはあった。
他の女にベタベタされたら嫌だ、みたいに言ってたけれど、本当は違うはずだ。
海で言っていた。「誘惑に流されそうになった」って、確かに言っていた。忘れるわけがない。
でも、粋は、きっと流されない。
山森梓を連れて来たのも、寿に会いたいと言われたからだろう。
どこにも悪気はない。悪意もない。疚しさもない。
分かっている。分かっているから、言えなかった。
「芹沢、俺たちのほうが御坂との付き合いは長い。だからこそ、あえてアドバイスさせてもらうと、こいつに遠慮をしても何もいいことはないぞ。どっちかといえば、悪いことしかない。だから、思ってることははっきり言ったほうがいい」
広瀬の表情は優しかった。目の前の粋だけが、顔を顰めて首を傾げている。
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