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寿は手を伸ばした。
「見せてもらっていいですか? 粋、スマホ、見てもいいよね?」
手をバタバタしながら、粋が頷いた。
広瀬から粋のスマホを受け取り、LINEを見た。
信じられなかった。トークルームには女の名前ばかりが羅列していた
一つ一つ開いて確認すると、どれもこれも、あはよくば粋に近付こうとする内容ばかりだった。どの言葉の端々にも、女のあざとさと卑しさが垣間見えた。
救いは、全ての誘いを粋が断っていることだ。
寿は立ち上がった。広瀬の後ろを通り、与井の肩を叩いた。
「交代してください。これ、やり方教えてください」
「おう! いいか、まずは左腕を首に掛けて、お、いいぞ、そうだ。で、右腕をこう掛けて締める! 上手いぞ芹沢! でも……もう少し力緩めろ、御坂が死ぬ」
粋の顔を覗き込むと、本当に苦しそうだった。腕の力を緩めると、思い切りむせて咳き込んでいた。
「マジで死ぬ……」
何度か深呼吸を繰り返し、粋は、寿の水を一気に飲み干した。まだ苦しそうな粋の顔を両手で挟んだ。
「ねえ、ちょっと想像してみて。あんたに送られてきてるLINEを私が他の男に送ってたらどう思う? 里中に、ハートマーク付きのLINEを送ってたらどう思う?」
少しだけ考えた粋は、苦虫をかみつぶしたように顔を顰めた。
「……嫌だ。ザワザワして、夜も寝れない」
「ちゃんと断ってるのは偉いと思う。でも、それよりも前に、何でこんなにたくさんやり取りしてるわけ? 自分でおかしいと思わないの?」
粋は肩を落とすとすっかり悄気てしまった。
どうしたら粋に分かってもらえるのか、コツみたいなものが分かった気がした。
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