公開裁判 寿・現在

6/23

1792人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
 寿は手を伸ばした。 「見せてもらっていいですか? 粋、スマホ、見てもいいよね?」  手をバタバタしながら、粋が頷いた。  広瀬から粋のスマホを受け取り、LINEを見た。  信じられなかった。トークルームには女の名前ばかりが羅列していた  一つ一つ開いて確認すると、どれもこれも、あはよくば粋に近付こうとする内容ばかりだった。どの言葉の端々にも、女のあざとさと卑しさが垣間見えた。  救いは、全ての誘いを粋が断っていることだ。  寿は立ち上がった。広瀬の後ろを通り、与井の肩を叩いた。 「交代してください。これ、やり方教えてください」 「おう! いいか、まずは左腕を首に掛けて、お、いいぞ、そうだ。で、右腕をこう掛けて締める! 上手いぞ芹沢! でも……もう少し力緩めろ、御坂が死ぬ」  粋の顔を覗き込むと、本当に苦しそうだった。腕の力を緩めると、思い切りむせて咳き込んでいた。 「マジで死ぬ……」  何度か深呼吸を繰り返し、粋は、寿の水を一気に飲み干した。まだ苦しそうな粋の顔を両手で挟んだ。 「ねえ、ちょっと想像してみて。あんたに送られてきてるLINEを私が他の男に送ってたらどう思う? 里中に、ハートマーク付きのLINEを送ってたらどう思う?」  少しだけ考えた粋は、苦虫をかみつぶしたように顔を顰めた。 「……嫌だ。ザワザワして、夜も寝れない」 「ちゃんと断ってるのは偉いと思う。でも、それよりも前に、何でこんなにたくさんやり取りしてるわけ? 自分でおかしいと思わないの?」  粋は肩を落とすとすっかり悄気てしまった。  どうしたら粋に分かってもらえるのか、コツみたいなものが分かった気がした。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1792人が本棚に入れています
本棚に追加