公開裁判 寿・現在

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「御坂、お前は逆の立場に立つというのがうまく想像できないのだと思う。いいか、頭の中に思い描いてみてくれ。芹沢に仲の良い男のモデルがいたとしよう。その男には下心があって、いつも芹沢をベタベタと触ってくる。その上、裸で抱き合う雑誌の企画が、持ち上がった。芹沢は、相手は友達なんだから何も心配するなと言う。その企画を見せてもらったら、男が芹沢の胸に直に顔を埋めるようなカットがあった。お前は、どうする?」  粋はしばらく斜め上を見て考えていた。  ちゃんと想像できているのだろうか。寿がその様子を観察していると、少し変化があった。  寿の手を握る力が強くなった。斜め上を見ていた瞳は、真っ直ぐに寿を見た。眉毛は情けなく下がり、鼻の上、目と目の間に皺が寄った。口はへの字になっている。 「全力で止める。そんなの、絶対に駄目だ」 「でも、仕事だ。お前も言っていただろう、卑猥な企画ではないんだ。編集者もみんな真剣だ。今更やめられないし、何よりも、芹沢は真剣だ。それを止めるのか?」  粋は、俯いてしばらく考えていた。 「……寿はモデルだから、嫌だけど応援する」 「よし、一つ条件を加えよう。芹沢はモデルではなくて会社員だ。たまたまモデルの男友達に誘われた。でも、友達だから心配はないと言う。さあ御坂、どうしようか」 「絶対にやめさせる。寿はモデルじゃないんだろう? いくら友達の頼みとはいえ、裸になる必要ないだろう。それも、それも、胸に顔埋めるとかおかしいだろ」  粋は、ずいぶんと怒りを高ぶらせていた。
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