1792人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
「でも、撮影は決行された。その雑誌が発売された後、モデルの男が御坂のファンだからと、芹沢が飲み会に連れて来た。お前に会っていない間、芹沢とその男は頻繁に連絡を取っていたらしいことも発覚した。どうだ、御坂。腹が立つだろう。嫌だよな?」
広瀬は凄い。
何が凄いって、粋の扱いを心得ている。
今の話は、粋の心を強く揺さぶったようだ。粋の表情には、驚きと戸惑いと、後悔みたいな色が浮かんでいた。
「料理教室の女性たちに律儀に返信したのは何故だ」
「無視したら悪いかなぁと思って……」
静かだった与井が、粋にまたチョーク・スリーパーを掛けた。
「お前は阿呆だ! バカだ! 何で料理教室の女どもに気を遣う。お前が一番に考えなくてはいけないのは芹沢だろう」
「待て、苦しい!」
「俺はやめないぞ! お前は阿呆だ。山原みたいに悪知恵を働かせて隠そうともしないから、もっと悪い。広瀬の話を聞いて、芹沢がどんな思いでいたか分かったろう」
粋は本当に苦しそうだった。寿が与井を見ると、与井は腕を解いた。
「……大丈夫?」
「うん……。帰ろうか、送って行くよ」
え、帰る? 突然の帰宅宣言に寿は困惑した。
「帰るのか?」
広瀬も驚いたようだ。眉を上げて粋を見た。
「うん、送ってくる。それで、ちゃんと謝るよ。広瀬も皆もありがとう。どれだけ寿を傷付けていたか、よく分かった。謝ったところで許してもらえないかもしれないけど、謝る」
ずいぶんと殊勝な態度で、粋は後輩含めた面々に頭を下げた。
「いや、待て。それは駄目だ。まだ判決が出てないだろう」
粋の黒目がまた小さくなった。驚いたり信じられないことがあると、粋の黒目はすぐに小さくなる。
最初のコメントを投稿しよう!