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「先輩方、ありがとうございました。あの、私、しばらくしたら、パリに引っ越すので、その前にまたこうやって会いたいです」
「パリに行くのか、芹沢。そうか、せっかく帰ってきたのにな」
広瀬の顔は本当に残念そうだった。
「パリならヘンクまで近いんじゃねえのか」
里中の言葉に、永倉がスマホで調べだした。
「近いっつっても、こっから東北ぐらい離れてるけどな。まあでも、会えない距離じゃねえな。良かったな、キャプテン」
粋は黒目を小さくして首を傾げた。
たぶん、いや絶対に分かっていない。フランスとベルギーが同じヨーロッパでお隣だとすら、分かっていないのかもしれない。
「東京から東北のほうって、新幹線ですぐだろ? え、そんな近いの?」
「飛行機ならブリュッセルまで一時間、ユーロスターでも行けるのか。お前は向こうで車を買って、ブリュッセルまでは車で行けば時短になりそうだな」
粋の瞳がキラキラと輝きだした。頬には赤味まで差している。
「よし、寿、早く帰ろう。じゃあな」
寿のコートとバッグを持つと、粋は座敷から出て行った。
「ちょっと待って! もう! じゃ、今夜は本当にありがとうございました。山原、林、また会おうね。クラス会、行くつもりだから」
年末近くにクラス会をやるとグループLINEが回ってきた。まだ返事をしていないが、寿は行くつもりだった。
「芹沢、気を付けてな!」
与井が奥から手を振った。手を振り返すと、ブーツを履いて先に行った粋の後を追った。
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