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店の外に出ると、粋が落ち着かない様子で立っていた。散々、皆に叱られてきたのに、すっかり忘れたのか期待に満ちた顔をしている。
「コート返して、寒いよ」
寿に着せようと、粋が広げたコートを無造作に掴んだ。
「粋さ、何か勘違いしてない?」
取り上げたコートを自分で着て、粋の手からバッグも取り上げた。
「私はまだムカついてるよ」
ワクワクウキウキしていた粋の顔がまた青ざめた。
「私はまだ怒ってるよ。執行猶予三年だからね、無罪ではないんだよ。分かってる?」
意気消沈した粋は、口を尖らして俯いた。
通り過ぎる人たちが何事かと、寿と粋を横目で見ていく。立ち止まる人まで現れた。ユナイテッドの御坂粋だとばれたのかもしれない。
「行こう粋」
俯く粋の手を取ると、寿は駅に向かって歩き出した。
粋の指先は冷たかった。振り返ると、同じ目線に粋の顔がある。履いてきたブーツのヒールを考えれば当然だ。
どうしようもないことなのに、こんな時でも、もっと背が低ければと思う自分がいる。
「……私、一人で帰れるから大丈夫だよ」
「俺は送っていきたいし、できるなら寿の部屋に行ってみたいんだけど。話もしたくないぐらい怒ってる?」
「ううん。二人でいると、私も大きいから目立つし、また写真を撮られちゃうよ」
粋が寿の手を解いて、腕を伸ばして抱き寄せた。
「写真なんて撮らせとけばいいだろ。それよりも、俺はちゃんと寿に謝りたいし、これからのことも話したい」
真横にある粋の顔を見た。
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