公開裁判 寿・現在

19/23

1792人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
 ソファに腰を下ろしたが、座っていられなくて横に倒れた。  さっきはふわふわしていたが、今はぐるぐるしている。目を閉じると余計にぐるぐるするから、天井から下がる白木のシェードのライトを見ていた。  粋がベルギーに行ったら、この部屋はどうなるのだろう。広瀬一人で住むには広すぎる。  天井を見上げる視界に、粋の顔が現れた。 「できたよ。やっぱり酔っ払ってるじゃん。水を持ってくるよ」  スパイスと熱せられた赤ワインのいい香りが漂った。  起き上がって待っていると、ミネラルウォーターのペットボトルを粋が持ってきた。蓋を緩めて差し出されたペットボトルの水を口に含んで、喉が渇いていたと気が付いた。 「お水美味しい」  三分の一ぐらい飲んで蓋を閉めた。 「口の端から水が零れてるよ」  拭う前に、粋の唇が触れて零れていた水を吸った。そのまま、優しくキスをされた。 「寿は酒が弱いんだな」 「粋は私よりもずっと飲んでいたけど、あんまり酔ってないね」 「うん。俺、酒強いんだ。全然まだ飲める」  寿はホットワインのカップを手にした。二重ガラスの耐熱性のカップの中、シナモンスティックの浮かぶ薔薇色の液体が煌めいていた。 「オレンジが入ってるよ」 「広瀬が入れると美味しいって、買ってきたんだ」  ホットワインを一口飲んだ。アルコールの匂いはしなかった。 「美味しい。葡萄ジュースみたい」 「……結構酔ってるみたいだったから、アルコール飛ばしてきた。あんまり飲み過ぎるなよ」  粋が眉を顰めた。きっと、「あんまり飲み過ぎるなよ」には、「俺のいない時は」がくっ付くのだろう。  不意に、さっき泣いていた理由を思い出した。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1792人が本棚に入れています
本棚に追加