公開裁判 寿・現在

21/23

1792人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
「あのさ、私ね、私の知らないところで女の人とLINEのやり取りしてるのも嫌だ」 「しないよ。もう、絶対にしない」 「私の知らない女の人に、粋が優しくして男らしいとか思われるのも嫌だ」 「大丈夫だよ、優しくしないから」 「ベルギーの女の子はもっと積極的かもしれない。顔立ちだって違うし、知らない土地で可愛い子に優しくされたら、粋だってぐらぐらしちゃうかも知れないよ」 「大丈夫、もう寿以外の女には近寄らないから」  言っていて情けなくなってきた。  心配と不安をぶつけて、束縛ばかりだ。  自分を信用できない恋人で、粋は息苦しくないのだろうか。  自分だったら、こんな彼女は嫌だと思ったら、また悲しくなってきた。 「……もう嫌だ」  涙が溢れる。心の中はいろんな感情が交じってグチャグチャだし、頭はぐるぐる回っていた。 「ごめん、本当にごめんね。もう心配掛けたり不安にさせたりしないから、約束するよ」  慌てた粋が指で何度も涙を掬った。  謝らせたいわけではない。ただ、安心と平静と、揺るぎない自信が欲しかった。 「……粋はさ、不安にならないの? 心配にならないの?」 「不安だけど、心配はしてないよ」 「何で?」 「分かんない。分かんねえけど、好きだからかな。あ、辛い思いしていないかなとか、苦しくて泣いていたりしないかなって、それは心配になる」  また涙が溢れてきた。 「粋」  返事の代わりに粋が少し首を傾けた。 「粋は、本当に私でいいの?」 「寿がいい。寿が好きだよ」 「……私、モデルを辞めようかな。そうしたら、粋とずっと一緒にいれる」 「駄目だよ、それは絶対に駄目だ」  珍しく、粋の顔が険しくなった。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1792人が本棚に入れています
本棚に追加