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「何で? どうして駄目なの?」
「ずっとって、ベルギーに来るってこと? 来てどうするの? 何するの?」
反対されるとは思わなかった。
来てどうするのとまで言われて、鼻の奥がツンと痛くなった。
「だって、粋はご飯作れないじゃん。それに、色々心配だし、だから、私が傍にいて……」
「世話をするって言うの? そんなの必要ねえよ」
粋の顔も声も怖かった。吐き捨てるように言われ、胸の奥がギュッと詰まった。涙と一緒に洟水まで垂れてきた。
「何で必要ないなんて言うの? 私は粋の傍にいたいんだもん。毎日粋に触っていたいんだもん。もう、離れたくないんだよ!」
子供のように大声を上げて寿は泣いた。
悲しくて苦しくて仕方がなかった。
「俺だって離れたくないよ。でも、どれぐらい寿がモデルの仕事を愛しているのか、俺は知ってるから。そんなに離れたくないなら、俺がパリに行くよ」
「来れるわけないじゃん! 粋にはサッカーがあるじゃない」
「だから、サッカーを辞めるよ。違約金を払わなくちゃいけないけど、それぐらい、なんとかなんだろ。サッカーを辞めて、寿とパリに行く」
あまりの衝撃に涙は一気に引っ込んだ。
「……駄目だよ。粋はサッカーが大好きなんだから。辞めたら駄目だよ」
「寿のためなら辞められる。嘘じゃない、本気だよ。何なら、今から中井さんに電話をする」
テーブルの上に置いてあったスマホをもう手に取ると操作を始めた。
覗き込むと、画面には中井さんと表示されていた。
「わ! 駄目! 電話駄目だって」
寿はスマホを取り上げると、急いで通話を切った。
「ねえ、寿、俺は本気だよ。寿のためならサッカーだって辞められるんだ」
粋の目は試合でしか見たことがないくらい、真剣だった。
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