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頭の感覚はぐるぐるしているのに、なぜだか思考は上手く回らない。
でも、粋はサッカーを辞めてはいけない、それだけは分かった。
寿は体をずらして、粋の膝に跨がった。
「辞めないで。お願いだから、サッカーを辞めないで」
「寿もモデルを辞めないで。俺は、モデルの芹沢寿のファンなんだ。見たろ、部屋にある雑誌」
確かに、日本では発売されていない雑誌まで粋の部屋の本棚に並んでいた。
「アメリカでしか売ってない雑誌まであったよ」
「うん、集めたんだ。寿の活躍が嬉しくて誇らしくてさ」
寿の活躍が誇らしいなんて、初めて言われた。
きっと、死ぬまで粋を好きだと思った。
まだ二十一年しか生きていないけれど、きっと、粋のように寿を愛してくれる人はいない。
「……会いに行くから、粋も会いに来てね」
「もちろん。思ったよりもパリとヘンクは近かったから、すげー興奮した。前みたいにずっと会えないなんてこれからはないよ。週一で会えると思うんだよね」
「毎日、LINEして」
「いいよ、毎日、LINEする。電話もする」
体の奥が温かくなってきた。
「……眠くなってきた」
「お風呂に入る?」
粋が体を少しずらした。粋の股の間にお尻を落として、腕に寄り掛かるような格好になった。温かい、安心した。
「一緒に入る?」
眠くて、蕩けそうだった。寿は腕の中で、頷いた。
「うっそ! マジで? 一緒に入る?」
「うん。もう眠いから、粋が洗って」
意味不明な叫び声を粋が上げた。そのまま、ソファに横にされた。
「お湯入れてくるから、寿、寝んなよ」
目は瞼と瞼がくっ付いたように開かない。遠くから、上機嫌な粋の鼻歌が聞こえた。
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