1793人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
「俺が……その、俺がさ。……本当に覚えてないの?」
「お風呂に入ったのなんて全然覚えてない」
粋が気まずそうに顔を顰めた。粋なりに思い惑っているのが分かった。
「私、何かとでもないことをしたの?」
「いや……。正直に話すから、怒らない?」
「聞いてから決める」
粋の眉が困ったように下がった。でも、決意したのか、大きく頷くと口を開いた。
「俺がさ、舐めてみる? って聞いたら、うんって」
またしても、全く意味が分からなかった。
「舐めるって、何を?」
「俺の。寿が風呂で握ったやつ」
「……舐めたの、私」
「うん。初めてだったんだろうけど、すげえ気持ち良くて、俺も出そうになっちゃったから途中でやめてもらって、そのままベッドに行った」
にわかには信用できなかった。あり得ない。結局、したということか。でも、体のどこにも、甘い余韻は残っていない。
「で、ベッドに寝かせたら眠いって言い出して。何もしないで寿が寝ちゃったから俺も寝た」
眩暈がした。
本当に酒は怖い。粋の話したことが本当なら、なんて恐ろしいのだろう。
廊下から広瀬の声が聞こえてきた。
寿は慌ててブラウスのボタンを掛け、ニットを羽織った。スカートを穿いたところで、粋に抱き締められた。
粋はまだ、上半身裸だ。
最初のコメントを投稿しよう!