初恋の人 (寿・現在)

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「俺が……その、俺がさ。……本当に覚えてないの?」 「お風呂に入ったのなんて全然覚えてない」  粋が気まずそうに顔を顰めた。粋なりに思い惑っているのが分かった。 「私、何かとでもないことをしたの?」 「いや……。正直に話すから、怒らない?」 「聞いてから決める」  粋の眉が困ったように下がった。でも、決意したのか、大きく頷くと口を開いた。 「俺がさ、舐めてみる? って聞いたら、うんって」  またしても、全く意味が分からなかった。 「舐めるって、何を?」 「俺の。寿が風呂で握ったやつ」 「……舐めたの、私」 「うん。初めてだったんだろうけど、すげえ気持ち良くて、俺も出そうになっちゃったから途中でやめてもらって、そのままベッドに行った」  にわかには信用できなかった。あり得ない。結局、したということか。でも、体のどこにも、甘い余韻は残っていない。 「で、ベッドに寝かせたら眠いって言い出して。何もしないで寿が寝ちゃったから俺も寝た」  眩暈がした。  本当に酒は怖い。粋の話したことが本当なら、なんて恐ろしいのだろう。  廊下から広瀬の声が聞こえてきた。  寿は慌ててブラウスのボタンを掛け、ニットを羽織った。スカートを穿いたところで、粋に抱き締められた。  粋はまだ、上半身裸だ。
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