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「後ね、俺がベルギーに発つまで、ここで一緒に住むって言ってたよ」
これまた爆弾発言だ。
「でも、無理だって自分で言ってた。明後日からパリなんだろう? 戻ってきても撮影があるって言ってた」
その通りだった。
パリには一週間滞在する。その間はミシェルとの打ち合わせがある。帰ってきたら、雑誌の撮影があると芙季に聞いている。
そういえば、最終節はいつなのだろうか。
「ねえ、粋が日本でする最後の試合はいつ?」
「来週の日曜日だよ」
来週の日曜日なら、観に行けそうだ。
「応援に行ってもいい?」
「中井さんにチケットを頼んでおくよ。与井たちとおいで」
もう一度唇が重なった。
「リビング行こうか?」
「その格好で?」
ドアノブに手を掛けた粋の鳩尾辺りを指で触れた。とても硬かった。
「着る。後のTシャツとトレーナー取ってよ」
着替える粋を見ながら、また離れるまでずっと一緒にいれたらいいのにと思った。毎朝毎晩、隣に粋がいたらなんて幸せだろう。嫌なことも辛いことも、きっと粋がいれば乗り越えられる。
「どうした?」
寿が後ろから抱き締めると、粋が振り返った。
「ううん。何でもない」
粋の唇がまた触れた。寿が俯いているのを見るのが嫌だと前に話していた。だから、笑った。
「泊まったのは与井先輩だけかな?」
「たぶん。広瀬は部屋に人を入れないからな。与井だけだと思う」
粋が部屋のドアを開けた。
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