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リビングには、粋の予想通り広瀬と与井の二人がいた。出汁のいい匂いが入った瞬間に鼻腔をくすぐった。
「おおー芹沢! おはよう!」
ソファに座っていた与井が立ち上がって、寿の頬を両手で挟んだ。
「すっぴんか? メイクしてる時とあんまり変わんねぇな。相変わらず可愛いなぁ」
驚いて固まる寿の頬にある手を、粋が掴んだ。
「触んな、与井! 寿に触っていいのは俺だけだ」
「うるせえ! ちょっとぐらいいいだろう。 美しいものを愛でるのは俺の自由だ!」
二人でやいのやいのと言い合っている。広瀬にキッチンから手招きされて、寿はそっとその場を離れた。
「おはよう、芹沢。二日酔いじゃないのか、顔色が悪いぞ」
広瀬に手渡された椀の中には、蜆の味噌汁が注がれていた。
「軽く飯を作ったんだ。食えるか?」
「おはようございます、広瀬先輩。味噌汁、飲みたいです。さっきまで胃が重たかったんですけど、この匂いでお腹が減りました」
「それは良かった。あいつらはまだ喧嘩してるのか、全く。よそうから運んでくれる?」
渡されたトレイに味噌汁と炊きたての白いご飯を乗せた。
リビングでは、粋が与井に何かプロレス技を掛けられていた。
「ほら、お前ら、飯だぞ。御坂、箸と飲物出してくれ。与井は芹沢を手伝え」
広瀬の一声でじゃれ合いは止まった。
目を上げると、白いカーテンの向こうから、日差しが降り注いでいた。気持ちのいい一日になりそうだった。
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