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「山原はよく来るの、ここ」
「東京に来た時とかは泊めてもらうよ。御坂先輩と仲直りできたんだな」
思い出したように山原が笑った。
「ごめん。決勝の話、昨日の夜もしたなって思ってさ。やっぱ溺愛されてんな、芹沢は」
まだ笑っている。寿は蜆の味噌汁を飲み干すとご馳走様と手を合わせた。
「結婚式には呼んでくれよな」
「しないから。来月からまた別々になるのに」
「ヘンクとパリって、横浜とニューヨークほど離れてないんだろう? 大丈夫、頻繁に会えるよ」
何が大丈夫なのだろう。全く、無責任極まりない。
「ねえ、芹沢さあ、どうしてサッカー部のマネージャーになったの?」
山原の思い付きの発言を聞いて、うるさかった粋と与井が静かになった。
「俺もそれ聞きたいな。気になってたんだ。時期も遅かったし、女子は割と友達とつるんで入ってくることが多かったけど、芹沢は一人だったしな。なぜだ?」
山原の前にご飯と味噌汁を並べて広瀬も会話に加わった。
粋と与井も寄ってきた。
「何で寿、入ってきたの? サッカー部なんて臭いし汚いし部員多いし大変だったろう」
大変だったけど、やめようとは思わなかった。
入部理由も続けられた理由も同じだ。一つしかない。
「御坂粋が……いたから」
耳も顔も熱かった。掌も汗でびっしょりだった。皆の顔を見られない。
自分のことを話すのは、からかわれるよりも苦手だった。
「……マジか」
与井が漏らした。
顔を上げると、与井を筆頭に粋までも、半分口を開いて唖然としていた。
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