初恋の人 (寿・現在)

14/14

1794人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
「覚えてないと思うけど、当時、背が高いことを気にして猫背だった私に、粋は背が高くて格好いいって言ったの。背筋を伸ばしたらもっといいって言われて、嬉しかったの。だから、猫背を治して、吉川中学の七番の人を調べて、その人を追って葦沢高校に入学したの」  自分の熱で溶けそうだった。顔も体も熱い。脇にまで汗を掻いていた。 「サッカー部のマネージャーをやりたいって思ったのは、インターハイで負けた時に、肩を落とした粋の後ろ姿を見て、力になりたいって思って、それで……」  洟水を啜る音がしてつい顔を上げた。  なんと、与井が腕で涙を拭っていた。 「やべえ、俺、すげえ感動した。つまりはさ、お前は中一の頃から御坂が好きだったってことだろ? 一途に思い続けるのって並大抵じゃないからさ、芹沢すげえよ」  余計に恥ずかしい。  粋は阿呆みたいに口を開けて呆けているし、何の助けにもならなかった。 「そうか。いや、俺も感動した。御坂、お前分かってるのか?」 「うん。すげえな、俺」 「お前がすごいんじゃない、芹沢がすごいんだよ」  また与井が粋に飛び掛かった。再び、二人のプロレスが始まった。 「……広瀬先輩、もしかして火付けっぱなしじゃないっすか?」  山原に言われて、広瀬は慌ててキッチンに戻って行った。 「……すごいな、初恋を叶えたのか」 「そうみたい」 「初恋が最後の恋か。映画みたいだな」  山原がにかっと笑った。 「俺はまだまだフラフラしていたいけど、一人に絞るのもいいもんなのかもな」 「あんたはいつか刺されるよ」 「気を付けるよ」  広瀬が焦げ気味の目玉焼きとウィンナーを皿に載せて持ってきた。  お腹が空いていたのだろう、山原は美味しそうに食べ始めた。  初恋が最後の恋。  山原の言葉が頭の中で何度も繰り返された。  本当にそうなればいいと思った。  与井にプロレス技を掛けられバタバタと暴れる粋と、運命の赤い糸が繋がっていればいい。  寿は左の薬指をそっと撫でた。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1794人が本棚に入れています
本棚に追加