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「覚えてないと思うけど、当時、背が高いことを気にして猫背だった私に、粋は背が高くて格好いいって言ったの。背筋を伸ばしたらもっといいって言われて、嬉しかったの。だから、猫背を治して、吉川中学の七番の人を調べて、その人を追って葦沢高校に入学したの」
自分の熱で溶けそうだった。顔も体も熱い。脇にまで汗を掻いていた。
「サッカー部のマネージャーをやりたいって思ったのは、インターハイで負けた時に、肩を落とした粋の後ろ姿を見て、力になりたいって思って、それで……」
洟水を啜る音がしてつい顔を上げた。
なんと、与井が腕で涙を拭っていた。
「やべえ、俺、すげえ感動した。つまりはさ、お前は中一の頃から御坂が好きだったってことだろ? 一途に思い続けるのって並大抵じゃないからさ、芹沢すげえよ」
余計に恥ずかしい。
粋は阿呆みたいに口を開けて呆けているし、何の助けにもならなかった。
「そうか。いや、俺も感動した。御坂、お前分かってるのか?」
「うん。すげえな、俺」
「お前がすごいんじゃない、芹沢がすごいんだよ」
また与井が粋に飛び掛かった。再び、二人のプロレスが始まった。
「……広瀬先輩、もしかして火付けっぱなしじゃないっすか?」
山原に言われて、広瀬は慌ててキッチンに戻って行った。
「……すごいな、初恋を叶えたのか」
「そうみたい」
「初恋が最後の恋か。映画みたいだな」
山原がにかっと笑った。
「俺はまだまだフラフラしていたいけど、一人に絞るのもいいもんなのかもな」
「あんたはいつか刺されるよ」
「気を付けるよ」
広瀬が焦げ気味の目玉焼きとウィンナーを皿に載せて持ってきた。
お腹が空いていたのだろう、山原は美味しそうに食べ始めた。
初恋が最後の恋。
山原の言葉が頭の中で何度も繰り返された。
本当にそうなればいいと思った。
与井にプロレス技を掛けられバタバタと暴れる粋と、運命の赤い糸が繋がっていればいい。
寿は左の薬指をそっと撫でた。
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