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プレイヤー・御坂粋 寿・現在
最悪だ。最悪だ。最悪だ。
到着機だかなんだかのトラブルで、シャルル・ド・ゴール空港の離陸が遅れた。当然、成田への到着も遅れた。その上、湾岸線でトラック事故があったせいで高速道路は大渋滞だった。
そもそも、数日早く帰国する予定だったのに、ミシェルが体調を崩し、ドレスの調整が遅れて帰国が延びた。昨日の早い時間の飛行機はいっぱいで、当日の朝に到着する飛行機しか予約できなかった。
体調を崩してしまったのは仕方ない。分かっている。
分かっているけれど、今日は、粋がユナイテッドでプレーする最後の試合だ。最終節だ。
何とか、タクシーを飛ばせば間に合う時間に成田に着いたが、事故渋滞とは予想外だった。
カードで支払いを済ませて、寿は駆け出した。
チケットを持っている与井には連絡済みだ。ゲートまで寿のチケットを持って迎えに来てくれているはずだ。
スタジアムの周りにはほとんど人がいない。サポーターのチャントが、大きく低いうねりとなって、周辺の空気を振るわしていた。
ギリギリの時間だ。もうすぐ試合が始まる。
ヒールなんて履いてくるべきではなかった。
寿は靴を脱ぐと、裸足で駆けた。
「芹沢! ここだ、芹沢!」
与井の声が聞こえた。西ゲートの関係者入口に与井がいて、手を振りながら懸命に跳ねていた。
「与井先輩……すみません」
久しぶりの全速力と冷たい空気にさらされたせいで、肺が痛かった。口の中に鉄の味がする。
「おう、よく来たな。試合はまだ始まってねえ。行こう。おい、靴履け。もう走んなくて大丈夫だ」
息を整える間もなく、寿は与井の後について座席へ急いだ。
ゲートを抜け、しばらく行くと視界が開けた。
満員だった。
超が付くくらい満員だ。
「すごい人……」
まだJ1リーグでは首位が決まっていなかった。相手は名古屋ゴールデンウェーブで、ユナイテッドと勝ち点が並んで、同率一位だった。
つまり、この試合で首位が決まる。
その上、前回のワールドカップで活躍した御坂粋の電撃移籍発表があった。
今日、この試合の後に壮行セレモニーをやると言っていた。
そんな試合に、人が集まらないはずがなかった。
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