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「名古屋の三番うめえな」
「ああ、御坂は動きを読まれてるな。広瀬も動きが固いし、神山も切れが悪い。この試合、苦しい展開になるんじゃないか」
そんな会話を、与井と川栗が開始直後にしていた。
下馬評でも、名古屋が有利な展開になるとほとんどの識者は見ていたようだ。
でも、完全に当て外れだった。
粋の活躍は、素晴らしかった。
確かに動きを読まれていたが、それを上回るパフォーマンスだった。
ディフェンスは苦手だって言っていたのに、中盤で名古屋のエースからボールを奪取した。すぐさま体勢を立て直し、その場から粋はロングシュートを打った。
そのボールは綺麗に軌道を描き、ゴールの手前で軌道を逸して、キーパーの遙か遠くのネットを揺らした。
スタジアムに一瞬沈黙が訪れた。
でも、次の瞬間には、割れんばかりの歓声が青い空に向かって大きく響いた。
「やべえ、鳥肌立った」
与井の呟きを合図に、川栗たちも声を上げた。
拳を握り吼えた粋は、チームメイトたちにもみくちゃにされていた。
すごい。粋はすごい。
本当に上手くなった。
粋がベンチに走って来た。ベンチの仲間たちにももみくちゃにされている。
ふと顔を上げた粋が、笑って拳を突き上げた。
粋に応えるように、与井たちが口々に叫んでいる。
「御坂、俺らに気が付いたな」
「見えますか、あそこから」
「見えるさ。見えてただろ、お前も。観客席で応援する部員の姿が」
思い返してみれば、確かに見えていた。声もちゃんと聞こえていた。
ならば、今の笑顔は寿たちに向けていたのか。
「粋-!」
粋が、こちらを見て、もう一度拳を上げた。周りから歓声が上がった。
届いた。
嬉しかった。
なんとなく、御坂粋の恋人だからと人目を気にして、静かに観ていなくてはいけないと思っていた。
そんなのはもうどうでも良くなった。
声がガラガラになってもいい。寿は懸命に応援した。
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