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前半が終わり、選手たちはロッカーに下がって行った。
一対〇。
試合は、ユナイテッドに有利に運んでいるように見えた。
「私、実は、プロの試合って初めてなんです」
隣でコーラを飲んでいた与井が、吹き出しそうになった。
「マジか! 留学する前は? 誘われなかったのか?」
「私がまだ高校生の時には、粋はあまり試合に出なかったじゃないですか。スタメンの時は、サッカー部も試合だったりして、機会に恵まれなかったんです」
選手たちのいないコートを見て、視線を観客席に移した。たくさんの人だ。
「すごいですね。テレビでは観てましたけど、迫力が違うし、粋がめちゃくちゃ上手くなってて驚きました」
「そりゃそうだ。高校の時もあいつは上手かったけど、さらにスタミナもついたし、フィジカルもメンタルも、比べものにならないくらい強くなったよ」
「テクニックもな。昔は力で押し負かすところが多かったけど、躱したりフェイントしたり、駆け引きも上手くなったよ」
端の席から尾崎が叫んだ。
「でも、もしかしたら、後半は苦しい展開になるかもな」
川栗が呟いた。
「名古屋はエースの桜木に上手くボールが回っていない。たぶん、中盤を一枚増やしてくるだろうな」
「だな。それにもう一つ。御坂は前半、走り過ぎだ」
久保の言葉に与井が頷いた。
「あいつは元々よく走るヤツだが、今日は異常だったな。ボールを追い回し過ぎだ。芹沢が来てるからって走り過ぎだ」
そうなのだろうか。粋がスタミナ切れになることは、サッカー部時代には一度もなかった。
言われてみれば、自陣のコートの深くまでボールを奪いに行ったりしていた。
粋は、後半でスタミナ切れになってしまうのだろうか。
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