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「どうしよう、与井先輩。私は来ないほうが良かったかな」
寿のせいで張り切り過ぎているのは、確かにあり得る。
だったら今から帰ろうか。スタミナ切れの粋を想像して、泣きそうな気持ちになった。
「バカ! 帰ったらそれこそ試合に集中できないだろう。お前は最後まで御坂を応援するんだ」
与井の顔は真剣だった。
「走り過ぎだけど、あいつのスタミナは人知を超えているからな。大丈夫だろ」
もしかしたら、言った罪悪感から元気付けようとしてくれてるのかもしれない。久保が焦ったように付け加えた。
粋と初めてベッドを共にした夜を思い返した。
粋は、朝まで本当に元気だった。あんなに動いて息も上がってるのに、少しすると持ち直していた。
「出てきた! 坂井さーん!」
坂井の名前に聞き覚えがあった。
あれだ、粋を会員制のクラブに誘った元凶だ。
坂井は、サラサラの髪をセンター分けにしていた。粋みたいにヘアバンドは付けていない。大きな二重の目元と薄い唇は、確かにモテそうだ。
「坂井さんってボランチだっけ?」
「そうだよ。あの人は攻守上手いからな。キーパー以外はどこでも入れるんじゃないか」
前半、粋しか見ていなかったことを後悔した。後半は坂井と、広瀬にも注目しよう。
「おお、御坂だ! 御坂ー! 後半も得点しろよー」
上のほうから男の叫び声が聞こえた。粋が出てきた。
会場のボルテージは一気に上がった。サポーターが粋のチャントを歌い、太鼓の音がスタジアムに響いた。
後半が始まった。
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