プレイヤー・御坂粋 寿・現在

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 川栗の言ったとおり、名古屋はボランチを増やしてきた。守備的なタイプではなく、攻撃の起点を作るのが上手い選手だと与井が教えてくれた。  久保の予言は当たらなかった。  粋のスタミナが底なしだったからではない。  後半、ユナイテッドのポールポゼッション(支配率)は明らかに落ちた。中盤でボールを持ちかけても、すぐに奪われて、粋まで回ってこなかった。名古屋のプレスは尋常ではなかった。 「名古屋のシステム変更が吉と出たな。ユナイテッドは、ボールを持たせてもらえなくなった」 「御坂はどうした? 動きが固いぞ」  そんな声が周りから聞こえた。  粋の調子は落ちていた。  トラップが悪い、持ってもディフェンスを突破できない。  なんとか自陣ゴールは割られなかった。桜木に持たれても、広瀬と坂井が上手く連携し防いでいた。  歯痒くもどかしい時間が三十分過ぎた。スタンドのボルテージも少しずつ下がり、応援団のサポーターの声だけが響いた。  逆に、名古屋側は盛り上がっていた。千載一遇のチャンスだと、観客の応援も熱を帯びた。  ユナイテッドの盾に綻びが生じた。崩れたのは、広瀬だった。  広瀬が、ボールを持った桜木に正面から挑んだ。ここまでは、広瀬の全勝だったのに、桜木は広瀬を突破した。  疲労が脚にきていた。縺れた脚はそこで止まり、広瀬はグラウンドに転んだ。 「広瀬先輩!」  思わず寿が声を上げた時、桜木がゴールを決めた。  お手本のような美しいシュートだった。  スタジアムが、歓喜と落胆で響めいた。  一対一。とうとう、同点になった。
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