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後半終了まで、あと五分だ。途中であまり試合は中断しなかった。アディショナルタイムは少ない気がした。
この後、名古屋はガンガンに攻めてくるだろう。ユナイテッドも攻めるはずだ。
どちらが攻め勝つか。やはり勢いのあるほうが勝つ。選手たちの顔を見れば一目瞭然だった。勢いがあるのは、名古屋だ。
与井も川栗も久保も尾崎も、それだけではない、周りの観客たちは皆言葉を失っていた。
御坂粋の最後の試合を勝利で飾れない。
一番嫌なパターンが、脳裏に浮かんでいるに違いなかった。
水分補給のために粋がコートを出てきた。
「どうしよう、与井先輩。粋に文句言いたい」
「……あいつ、後半悪すぎだな。言っていいぞ、かましたれ」
寿は息を大きく吸い込むと、腹に力を入れた。
「粋ー!」
粋が顔を上げた。
「このポンコツ! 頑張れ! もっと走ろ! 男を見せろ!」
粋の黒目が小さくなったのが分かった。首は傾げていないから、伝わったのだろう。
「御坂-! いい加減そろそろ決めろ!」
「負けたら許さねえぞ! 終わったらスタジアムの外周走らさせんぞ!」
与井たちも叫んだ。
ぼけっとこちらを見ていた粋の口元が緩み、一点目を決めた後と同じように大きく拳を突き上げた。
「任せろ! すぐに決めてやる」
粋は確かにそう言った。粋の声は、サポーターたちにも届いた。
今日一番の歓声が沸き起こった。声と音と熱がうねり、スタジアムを震わせた。
ユナイテッドの応援席は、『御坂ならやってくれる』そんな期待と興奮で、再び熱を帯びた。
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