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「……やっぱり御坂は御坂だな」
椅子に再び腰を下ろして、川栗が大きく息をついた。
「高校の時、あいつの背中は、ピンチの時ほど大きく見えた。御坂は、たくさんの重圧を背負って、いつも俺たちに勇気を与えてくれた」
川栗の声が震えた。川栗も与井も泣いていた。
「阿呆だけど、すげえなあいつは」
「ああ、俺らのヒーローだ」
ヒーローは一人ではない。もう一人いた。
「広瀬先輩!」
寿の声が届き、広瀬が振り返った。
粋にしたのと同じように、親指を立ててみせた。クールな広瀬には珍しく拳を突き上げた。
最後のアシストは、きっと、広瀬から粋への激励だと思った。
広瀬は、限界まで来ている足で上がってきていた。セカンドボールを拾い粋に繋げた。
あのパスは、「ベルギーに行っても負けるな」と広瀬の代わりに叫んでいた。
サポーターから広瀬コールが沸き起こった。
「広瀬先輩も、与井先輩も川栗先輩も久保先輩も尾崎先輩も、皆、私のヒーローです」
与井の目から涙が溢れ出した。
「芹沢! お前は本当に可愛いヤツだな」
髪をぐしゃぐしゃにして頭を撫でられた。全国大会の時も、こうやって撫でられた。皆に祝福されて、主審に注意されて監督に怒られた。
あれから五年だ。
次の五年後、寿と粋は何をしているだろうか。一緒にいるだろうか。もしかしたら、別々の人生を歩む選択をしているかもしれない。どちらにしても、二人が笑っているといいと思った。
これから粋の壮行セレモニーが始まる。
チームメイトに送り出され、照れ笑いを浮かべて中央のマイクスタンドに向かう粋の姿が、また滲んだ。
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