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幸せな時間 寿・現在
寿のパジャマはジェラートピケだ。芙季の趣味だった。
ざっくりと編まれたアイボリーのパーカーの下同じ柄のショートパンツを穿いて、靴下を膝下まで伸ばして、ソファでごろごろしていた。
テレビのスポーツニュースでは、ついさっきまで、粋の壮行セレモニーのスピーチが流れていた。
たぶん、一度シャワーを浴びたのだろう。
テレビの中、ロッカールームから戻ってきた粋のくせっ毛は、落ち着きを取り戻していた。
溢れる涙を拭う可愛らしい女子たちがアップで捉えられていた。目を赤くした男性の姿も映った。
寿は泣かなかった。真面目に話す粋を見逃さないよう、瞬きもせずに見ていた。
帰り際、与井たちに食事に誘われたが、今夜は真っ直ぐに帰ってきた。さすがに十四時間のフライトの後の試合観戦は疲れた。
粋は今頃、クラブのチームメイトたちと飲んでるのだろうか。
LINEに、『おめでとう、お疲れさまでした』と送ったが、ありがとうの八咫烏のスタンプが送られてきたきりだ。
当然、今夜は会えない。でも、明日は会えるだろうか。
寿のせいとはいえ、十日も会っていない。
スマホを操作して、粋の写真を表示した。
会いたかった。今すぐ会いたい。
粋は、会いたいと思っているだろうか。
きっと、粋の飲んでいる席に女の人だっているはずだ。もしかしたら、キャバクラとか女の子のいる店にいるかもしれない。
粋は浮気をしない。でも、相変わらずモテているかもしれない。寿はこんなに会いたいのに、粋は他の女と飲んでるかもしれないと思うと、腹が立ってきた。
LINEを開いて、今すぐ会いたいと入力して、すぐに消した。そんなわがままを言えるわけがなかった。
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