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ニューヨークで待っていた時には、こんなこと、あまり考えなかった。浮気を疑ったり、会いたくて会いたくて頭が粋でいっぱいになることもあまりなかった。
あの頃は、粋の活躍が見れればそれで良かった。
活躍すればするほど、早く迎えに来てくれると信じていた。
粋に会えて、愛されれば愛されるほど、どんどんと欲張りになる。
会いたい。触れたい。そばにいたい。
今の寿は、煩悩にまみれた欲の塊だ。
初めてお酒を飲んで粋の部屋に泊まった夜、本当は、全部覚えていた。忘れた振りをしないと、恥ずかしくていられなかった。
粋のものを握ったのも、咥えたのも覚えている。
熱っぽい粋の視線も、粋の口から漏れた甘い吐息も覚えている。
寿のためならサッカーを辞められると言った粋の真剣な眼差しも覚えている。
寿は、立ち上がると冷蔵庫に向かった。
今夜は眠れないような気がして、帰りに小さな梅酒ソーダを買ってきた。冷蔵庫から出すと、半分ぐらい一気に胃に流した。胃が熱くなる感覚があった。
粋に、LINEでおやすみのスタンプを送って、残りの梅酒ソーダを飲み干した。
歯磨きをしていたら、通知音が鳴った。
粋だろう。たぶん、八咫烏のおやすみスタンプだ。
歯ブラシを握る手を動かしながらLINEを開いた。
『寝ちゃった? 今、俺、日本橋にいる。住所教えて』
咄嗟に時計を確認した。もうすぐ午前零時だ。
狼狽えた寿は、とりあえず住所を送った。戸惑いとは別に、胸が高鳴る。
既読がついてから十五分後、インターフォンが鳴った。画面には、散々恋い焦がれた粋がいた。
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