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オートロックを解除すると、画面からあっという間に粋の姿が消えた。寿は、早足で玄関の前に行き、外の物音に耳を澄ませた。
どんなに小さな音も見逃したくないのに、鼓動がうるさくて、集中できない。
そのうち、テンポの速い靴音が聞こえた。
絶対に粋だ。ドアスコープに左目を付けて目を凝らした。すぐに粋が現れた。門を開けて玄関ポーチに入って来た。
人差し指を立てて、キョロキョロしている。インターフォンを探しているのだろう。インターフォンは、門扉の外にあるのに。
寿は玄関を開けた。
「うっわ! ……びっくりした」
粋が仰け反った。粋の腕を掴むと玄関に引き入れて、寿は玄関に鍵を掛けた。
「……何で来たの?」
寿は粋を見上げた。
「え! 来ちゃいけなかった? 住所を教えてくれたからいいのかと思って来ちゃった……」
しょぼくれて項垂れた粋の肩に顔を寄せた。
「だって、今、日本橋にいるなんて言われたら、教えないわけにはいかないでしょう」
「寿は会いたくなかった? 俺はすげえ会いたかったよ。今日だって、本当は、フェンスを跳び越えて傍に行きたかった」
粋が寿を抱き締めた。アルコールの匂いがする。酔っ払って、勢いでやって来たのかもしれない。
「お別れ会は? 祝勝会は? 主役がいなくていいの?」
「ちゃんと正式のは出たよ。挨拶もしてきた。二次会も出た。そこで抜けてきた。寿に会いに行こうと思ってたから抜けるつもりだった」
「……先に言ってくれれば良かったのに」
腰に回した腕を強く抱き締めた。コートからいつもの香水の匂いに混じって煙草の匂いがする。喫煙者が近くにいたのだろう。
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