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「御坂選手、優勝おめでとうございます」
マイクを握るように拳を作って、裸の粋に向けた。
「ありがとうございます。サポーターの皆さんやファンの皆さんのお陰で、決勝点を決めることができました」
二人は顔を見合わせると笑い合った。
「葦沢高校でも一緒だった、広瀬選手のアシストでしたね」
「最初のシュートは蹴った瞬間に決まったと思いました。あれは、名古屋のゴールキーパーの反応が素晴らしかったです。ああ駄目だった、そう落胆した時に、視界に広瀬が映って、勝利を確信しました」
広瀬が見えただけで勝利を確信したなんて、すごい信頼関係だ。粋にとって、広瀬がフォローするために上がってきた事実は、何にも代え難いほど嬉しかったのだろう。
「ホイッスルが鳴って、チームメイトと喜び合った後、どうしても顔を見たい人がいました。スタンドに走ったら、笑って喜んでくれていると思っていたその人がいなくて、めちゃ焦りました」
想像のマイクを握る寿の手が緩んだ。
「その人はすごく泣いていました。いつも泣かせてしまって、また泣かせてしまったと心配しましたが、立ち上がって笑ってくれました。その人の笑顔を見て、ああ、勝ったんだって、すごい込み上げてくるものがありました」
粋の手が寿の頬を撫でた。
「来てくれてありがとう。成田から直接来てくれたんだよな。今夜は寝よう。長いフライトで疲れていて、その上時差もあるのに、無理させようとしてごめん」
粋のくせに気を利かせるなんて、生意気だ。
ついさっきまで、あんなにガツガツしてたくせに、急にしおらしくなって、やせ我慢して。
「寿がいなかったら、勝てなかったかも。寿の声、ずっと聞こえてたよ」
ただでさえ格好良い顔を優しく穏やかに緩めて、寿の好きな伏し目がちな目で見詰めてくる。低く甘い声で、寿の心の中の柔らかいところを優しく撫でる。
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