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堪えていた涙が溢れた。
「え! ええ! 何で、どうして泣くの?」
粋が狼狽えた。寿が泣くと、いつも粋はおろおろと心配する。
厚い胸に頬を寄せると、粋の鼓動が聞こえた。粋が寿の髪を梳いた。
「泣かないで」
粋が小さな声で呟いた。涙を拭って顔を上げると、心配そうに眉を顰めた粋の顔が目の前にあった。
眉の下にある切れ長の目は、細目になっていた。
「大丈夫だよ、泣き止んだ。粋、眠そうだ」
まだ少し湿り気を残した前髪に触れると、粋が目を閉じた。
「うん。寿が柔らかくて温かくて、くっついてたら眠くなってきた」
眠そうな顔の粋は、結構レアだ。
高校の時だ。試合や合宿の移動中、粋は寝てるか食べてるかで、こんなに眠気と戦っているのを見たことがなかった。
今日、あんなに走れば当然だ。
「寝ていいよ」
「でも……寿が起きてるのに……」
「大丈夫。私も眠いから。ちょっと待って、まだ寝ないで」
寿は靴下を脱ぐと、キャミソールとショートパンツも脱いだ。
体をピッタリと寄せると、再び粋が目を閉じた。
「……朝起きたら、お仕置きだからな」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
三秒も経たずに、寝息が聞こえてきた。
やっぱり、キャミソール越しに触れ合うよりも、肌と肌をつけたほうが温かいし安心した。
粋の足に足を絡めて寿も目を閉じた。
寝る前に今日の粋を思い返そうと思ったのに、たぶん、三秒も経たずに深い眠りに落ちた。
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