幸せな時間 寿・現在

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 くすぐったい。  何かが触れる気配がして瞼を上げた。粋のくせっ毛が寿の鼻先を柔らかく刺激していた。 「ちょっと粋、どこで寝てるの」  粋は、寿の胸に顔を埋めて寝ていた。頭を軽く叩いてもまだ起きない。 「粋、起きて。髭がチクチクして痛いよ」  乳房の皮膚に粋の頬の髭が刺さって変な感じだった。  くせ毛が動いた。やっと起きたようだ。体を起こすために動かそうとしたら、粋に覆い被された。 「俺、先に起きてた。寿の寝顔を見て、おっぱい触ってた」  寝起きの頭はすぐには働かない。粋の言葉を何度も頭で反芻した。  胸に残る甘い痺れと、少し湿り気を感じる膣で、本当に触っていたのだとやっと理解できた時には、粋の鳩尾を思いきり殴っていた。 「いって!」  不意を突かれたのだろう、寿のパンチはそこそこヒットしたようだった。それでも、蚊に刺された程度だろう。 「最悪。寝てる人間に何するの? 卑怯だよ!」 「卑怯じゃないよ。朝起きたらお仕置きだって夜言っただろ」 「それは私が起き……」  会話は続かなかった。  塞がれた口の中を粋の舌が舐めた。急にキスをされて呼吸が上手くできなかった。  何度も粋の胸を叩いて、粋がやっと離れた。 「ずっとしたかった。もう我慢できないよ」  セックスイコール挿入だと言うなら、確かに処女を捧げた日から一度もしていなかった。 「……まだ一ヶ月も経ってないよ。ヘンクとパリは前よりは近いって言っても、一ヶ月ぐらい会えなくなるのはザラかもよ? 我慢できないの?」 「できない。だから、会いに行く。絶対、週イチで会いに行く!」  また唇を塞がれた。また胸を叩いたら、粋はすぐに離れた。
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