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後悔先に立たず。
覆水盆に返らず。
落花枝に返らず、破鏡再び照らさず。
諺とは、人生の智慧や教訓、観察、経験が要約されているとつくづく思った。
やっぱり、擦れて痛いし、脚の付け根も重だるい。
「冷蔵庫に豆腐とほうれん草があったから、味噌汁作るよ。卵も焼くから、寿は寝てて」
着替えた粋は得意げな顔で、裸の寿を残して寝室を出て行った。
本当に味噌汁なんて作れるのか。徐に起き上がり、下に落ちている下着を身に付けた。
またキスマークを付けられた。今度は、右胸にも左胸にもある。
指先で桃色の痕に触れた。きっとすぐに消えてしまう痕は、幸せの象徴に見えた。
バックステージで怒られていたモデルも、反省した顔の向こう側で、甘い時間を思い出していたのかもしれない。
怖くなった。寿の手の中の幸せは、すぐに崩れるのではないか。砂の城のように脆いのではないか。
二人の思いは、とても儚いのではないか。
粋とディープキスをするまで、セックスするまで、空白の三年間を隔てて、五年も掛かった。
次はどれくらい離れるのだろう。
本当に週に一回も会えるのだろうか。
一度考えれば、不安は次から次に湧いてくる。
寿は頬を叩くと、服を着た。
早く粋の顔を見たい。ついさっきまでそばにいたのに、もう寂しい。今は片時も離れたくなかった。
ジーンズのジッパーを上げて、粋の元へ駆けた。
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