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ジェヒ 寿・現在
粋が寿のマンションにやってきて一週間が過ぎた頃だった。
その日は、オーリスの撮影が入っていた。初めての雑誌なのに、芙季ではなくて高倉が来た。
「すみません、今日は山崎さんに代わって僕なんです」
高倉は銀縁の眼鏡を掛けた神経質そうな感じの男だ。実際は神経質すぎることはなく、芙季の右腕としてよく働いている。
「珍しいですね。咲妃ちゃんと涼香ちゃんは大丈夫なんですか?」
「咲妃はオフで涼香のところは後で行きます。今日の撮影ですが、予定していたメンズモデルが発熱のため、急遽別のモデルになったそうです。それが……」
高倉の言葉が止まった。
「何か問題あるの?」
もしかしたら粋? 一瞬、あり得ない自分の考えに胸が高鳴った。
「韓国のボーイズグループのエクリプスって知ってますか? 今、世界で売れているグループです」
「知ってる! 昨日もテレビで観た」
「それのジェヒが今日の寿さんの相手になります」
イ・ジェヒは、エクリプスの中でも目立つメンバーだ。寿でも名前を知っていた。
「……日本にいるんだ。さすがだわ、オーリス。セレブリティな雑誌なだけありますね。ジェヒがピンチヒッターなんて、他ではないですよね?」
「いや、それが……」
高倉がまた口籠もったところでドアが開いた。
「”いた! 本物だ! コトブキ、初めまして”」
流暢な英語で、ノックもなしに入ってきたのはジェヒだった。
「”嬉しいな。俺は君の大ファンなんだ。まさか君がオーリスのモデルをやるとは思わなかったよ。編集長にお願いしておいて良かった。俺はラッキーボーイだ”」
ジェヒは寿を立たせるときつくハグした。
韓国人は、わりと誰とでもどこででもハグをする。ミシェルもそうだ。
でも、いきなりいつもテレビで観るイケメンにハグされるのには、寿も面食らった。
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