そばにいたいのに 寿・現実

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「芹沢は飲み過ぎんなよ。今日の飲み方、何か自棄(やけ)っぽかったし、俺は御坂先輩と喧嘩でもしたのかと思ってたよ」 「ええ! 喧嘩! 怒ってるの、寿。俺が山原みたいに笑えないから?」  粋はまた的外れなことを言って一人で恐れおののいている。 「違うよ。喧嘩なんてしてないでしょう? 何も怒ってないよ」  安堵したように粋が笑った。こんなとぼけたところが愛おしくて、寿も笑った。 「へえ、意外だ。芹沢も先輩の前だとデレるんだな」  デレるなんて初めて言われた。いや、前にも言われた。いつだろうか。頭が働かなかった。 「そうなんだ。可愛いだろう。でも駄目だぞ、寿は俺のだから」  寿を抱き締める粋を見て、山原はゲンナリした表情で首を左右に振った。 「付き合いきれねえ。帰る。じゃあな、芹沢。御坂先輩、ベッドを借りますよ」  山原は足早に駅へと歩いて行った。 「山原! ありがとう!」  振り返りもせずに手を挙げて、山原は人混みに紛れた。 「帰ろうか。歩ける?」  粋が指を絡めてきた。体を寄せ合って、しばらく二人は無言で歩いた。  幸せは長くは続かない。波があって、上がった後は必ず下がる。  ビルの緑地帯の陰で寿は止まった。 「……粋に謝らなくちゃいけない」  首を傾げて粋が寿を見た。
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