そばにいたいのに 寿・現実

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「今日の撮影ね、ジェヒとだったの」 「じぇひ? じぇひって何? 食べ物?」 「違うよ、昨日テレビで観たでしょう。エクリプスのジェヒだよ」  黒目を上に向けてしばし考えていたが、思い出したのだろう、目を大きく広げて寿を見た。 「あの色男か! あいつと撮影だったの? なんかエロいことされたんじゃないか?」  阿呆だけに鋭い。さすがだ。 「最初の挨拶でハグされて、ちょっとドキドキした」 「嘘……ドキドキって」 「粋よりも大きい男の人に抱き締められたことないから、少しときめいちゃった。ごめんね」  粋の黒目が一回り小さくなった。 「そそそそそそそ……それって、お前、浮気じゃないのか? 浮気っていうのは浮ついた心って書くんだ。ときめいたって、それは浮気だろ」 「浮気じゃないよ。ちょっとドキドキしただけだし」  本当はジェヒの話はするつもりなかった。  仕事だ。粋と違ってこっちは本業だ。やましいことは何もない。 「あと、撮影中にやたら胸を触られた」 「む!」  粋は絶句したまま固まった。 「今回の撮影は……詳しくは話せないけど、超ハイブランドの特集で、私も初めての雑誌だったの。ウィメンズとメンズの新作の紹介で、恋人同士風にしなくてはいけなかったの。触られたっていっても、こんな感じだよ」  寿は粋を後ろから抱き締めた。アンダーバストの下辺りに腕を滑り込ませて抱き締め粋を見上げた。
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