そばにいたいのに 寿・現実

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「交代しろ。こうか?」  寿がやったように粋が後ろから寿を抱き締めた。 「アウトだ。完全に下乳が腕に当たる。寿、お前仕事だからってこんな……」 「もっと際どい撮影した人は誰ですか?」  また粋が固まった。 「それをサプライズとか言って嬉しそうに話してきたのは誰ですか? ベタベタくっついた相手と料理教室に通った阿呆は誰ですか? 飲み会にその女を連れてきた阿呆はどこのどいつですか?」  ぐうの音も出ないみたいだ。  粋は寿から離れると、アスファルトに正座をして頭を下げた。 「本当に申し訳ありませんでした。もう許してください。マジすみませんでした」 「冗談だよ、立って」  粋の手を取ると立たせた。面目なさそうに顔を歪めている粋は本当に可愛い。  大好きだ。 「来週の月曜日、パリに発つって」  ずっと一緒にいたい。  こうやって馬鹿をやって笑い合いたい。 「デザイナーが体調を崩したから帰国が遅れたって話したでしょう。そのデザイナーが、私が着るドレスをもう一着作るんだって。イメージが固まらないから早く戻って来いって芙季さんに電話があったんだって」  粋の黒目はすごくすごく小さくなった。 「あと二日しか一緒にいれないの。クリスマスも別々になるの」  離れたくない。  そばにいたい。 「ごめんなさい」  涙が飛び出してこないように奥歯を噛んで喉に力を入れた。ガッカリしている粋の顔を見られなくて、一度俯いたらもう顔を上げられなかった。
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