そばにいたいのに 寿・現実

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「顔を上げて」  粋の手が、握りしめる寿の拳を上からそっと包んだ。 「デザイナーって、ミシェル・パークだろ? 前に話してたオートクチュールのだろ? すごいじゃん、寿のためにもう一着ドレスを作りたいなんて。栄誉あることだよな」 「粋は寂しくないの?」 「寂しいけど、それよりも寿がたくさんの人に認められて世界で活躍するほうが嬉しい」  粋は笑っていた。  三年前に、海で約束した時と同じ顔だ。 「クリスマス、一緒に過ごしたかった」 「来年は必ず一緒に過ごそう」 「もっと日本で一緒にいたかった」 「大丈夫、すぐに会いに行くよ」  粋に抱き締められた。冷めないアルコールが、寿の気持ちを余計に昂ぶらせた。 「粋の会いに行くよはアテにならないんだよ。知ってる?」  目を上げると、困ったように眉根を寄せていた。 「だから最初は私が会いに行くよ。ちゃんと住所教えてね」 「うん。もう分かってるから、帰ったら教える。……帰ろうか」  指を絡めて、二人はまた歩き出した。足下が覚束ない寿を支えるようにして、粋の腕が腰を抱いた。  たくさんの人が通り過ぎて行く。あと一週間と少しでクリスマスだ。上品なイルミネーションで飾られた街路樹の下を歩くだけでも、少しは気分を満喫できた。
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