そばにいたいのに 寿・現実

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「あと二日か」  しばらく歩いて粋が呟いた。 「成田まで見送りに行こうかな」 「駄目。来ないで」 「何で? 行ったら駄目? その日は何も予定ないし。何時の飛行機なの?」 「朝、八時」 「何で来ないで、なの? 早い飛行機だから?」  寿は首を横に振った。 「……離れたくなくなる。パリに行けなくなる」  本当は見送りに来て欲しい。  けれど、来られたら泣いてしまいそうで、嫌だった。離れるのは寂しいし辛い。  次にいつ会える日のか、未来は未定だ。粋も寿も、行ってみないとどんな生活になるか分からない。それくらい、寿も理解している。  離れる日の確約はあっても、再会できる日の確約はない。  横を歩く粋の顔が、心配そうに歪んでいた。  寿が泣いたり俯くと、いつも粋は辛そうな顔になって、とても心配する。  粋に心配を掛けたくなかった。 「嘘だよ。お見送りして。前回のお見送りは来られなかったでしょう。だから、今回は来てね。錬と将とお母さんも来るの。弟たちも粋が来たら喜ぶから」  あと二日は絶対に泣かないと、絶対に笑って過ごすと、たった今決めた。  弱音も吐かない。  笑って見せても、粋は、まだ、心配そうだった。 「錬と将は中学一年生になったの。サッカーも続けてるんだ」  寿はスマホを操作して写真を出した。 「ほら、見て。身長はまだ私の方が大きいけど、でも、大人になったでしょう」  粋が料理教室に通っている間、一度だけ実家に帰った。  祖母は温泉旅行、父は仕事で家にいない時を狙って行った。寿がニューヨークに留学した時には小学四年生だった弟は、中学一年生になった。見た目は中学生なのに、中身はまだまだ子供のままで、口には出さなかったが、可愛い弟たちが変わっていなくて寿は嬉しかった。 「うわ、でけえ。俺が会った時はまだ小学一年生だったのに。懐かしいな」  スマホ画面に見入る粋の腰に、今度は寿が腕を回した。
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