そばにいたいのに 寿・現実

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「ねえ、粋。おんぶして」 「いいよ。ほら」  スマホを寿に返して、粋がしゃがんだ。寿が背中に乗ると、寿の膝の裏側辺りに腕をいれて粋が立ち上がった。 「重くない? 大丈夫?」 「大丈夫。全然軽い。走れるよこのまま」  粋が走り出した。冷たい空気が目に滲みた。 「粋、帰ったら一緒にお風呂入ろうね」  流れていた景色が止まった。上から覗き込むと、粋の頬にキスをした。 「そっか、寿は今酔っ払いだった。……もしかして、そしたらまた俺の触るの?」 「うん、触るかも。それで、舐めてあげる」 「マジで? ……いや、いいよ。あんまり良くない」 「良くなくないよ。気持ちいいんでしょう? ほら、早くしないと私の気が変わっちゃうかもよ?」 「……気が変わったら嫌だな。じゃあ、急いで帰る」  粋がまた走り出した。本当に速い。  大きな背中に揺られて風を切るのは、迫力があって、気持ちよかった。  上を向けば、狭い空は真っ暗だった。寿が住むところのパリの空も広くはない。粋が住むヘンクの空はどうだろう。広いのだろうか。  未来のことを考えるのはやめた。  泣かないと笑っているとさっき決めた。今は粋との時間を大切に過ごそう。  寿をおぶって、粋はどんどんとスピードを上げて駆けた。
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