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洗濯機を回しながら歯磨きをした。洗面周りは明日出掛ける前にまとめればいい。
リビングにも寿の私物はあまりない。玄関のシューズクロークを開けた。靴も数足しかない。一足だけ玄関に出して、他は箱に入れた。
あとは服だ。
寝室のクローゼットの中から、着ない服を出した。
葦沢高校のジャージも出して丁寧に畳んだ。
これが、粋からの初めてのプレゼントだ。次は、お古の練習着を貰った。
三つめは、誕生日に貰ったケーキで、これは二人で部室で食べた。
その後は、誕生日も、クリスマスも、粋からは花束を貰った。
最後のプレゼントは、卒業式に貰った薔薇の花束だ。オレンジのスプレーバラを十一本貰った。
寿は、スマホ起動してLINEのアイコンを表示した。画面に映るのは、卒業式に貰った薔薇の花束だ。しばらくして花言葉を調べた。
オレンジのスプレーバラの花言葉は、幸多かれ。十一本の意味は、最愛だった。
でも、あの頃の粋がそこまで深読みしたとは考え難い。きっと、お小遣いの範囲で買えた薔薇が十一本で、たまたまオレンジの小さな薔薇が可愛かったからだろう。
「何か手伝えることある? って、全然できてねえじゃん」
「だって、色々懐かしくて」
LINEのアイコンを見せた。粋は、懐かしそうに笑うと、ベッドに座る寿の横に座った。
「この薔薇にはちゃんと意味があるんだよ。知ってた?」
寿は目を瞬かせた。
「この薔薇の花言葉は、幸多かれで、十一本にも意味があるんだぜ」
「……最愛?」
「そう! すげえ、良く知ってたね。花買う時に店員さんに教えてもらって、これにしたんだ。LINEのアイコンになってたからさ、気に入ってくれたんだって嬉しかったよ。わ、寿! どうした?」
寿は粋を抱き締めた。勢いに押されて粋が倒れたが、お構いなしに抱きついた。
大好きだと伝えたいけど、今言葉にしたら涙が零れそうだった。泣かないと決めたからには、泣きたくなかった。
「ほら、早く荷物片付けて銀座行こうぜ」
「……うん」
粋の唇が近付く。軽いキスを交わして、笑い合った。
最愛の人との初めての銀座デートが楽しみで仕方がない。寿は片付けの手を早めた。
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