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荷造りを終えて、粋に連れて行かれたのは銀座ではなくて外苑前だった。
「ここ外苑だよ」
「銀座も外苑も一緒だろ。こっちだ」
スマホを見ながら、寿の手を引いて歩く。
「全然違うよ。銀座から電車に乗ったでしょう。ねえ、どこに行くの?」
「秘密。ええと、こっちか。行こうもうすぐだよ」
どんどんと進む先には、デパートやショップはない。住宅ばかりだ。
いったいどこに向かっていて何をプレゼントしてくれるのだろう。ずれたマフラーを掴んで、粋に手を引かれるがまま寿は歩いた。
到着したのは、ヨーロッパ風の古い家屋だった。
街の喧騒から少し離れたその家は、まるで時間が止まったかのように静かに建っていた。白い板張りのような壁は少しくすんでいて、重厚そうな木の扉は良い具合に日に焼けている。庭には、細やかに手入れされた遅咲きの薔薇が咲いていた。
門の外のインターフォンを粋が鳴らした。
スピーカーからは何も聞こえず、代わりに重そうな木の扉が開いた。中から出てきたのは、小さくて丸っこいおばあさんだった。
「あらあら、寒かったでしょう。どうぞ上がってください。御坂さんね?」
「はい。今日はよろしくお願いします」
門をくぐり玄関に一歩入って驚いた。
中はショールームのようで、アンティークのショーケースがいくつも並んでいた。
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