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「”初めまして、ミスター・ミサカ。僕はコトブキの大ファンで……”」
ジェヒが話し終わる前に、ジェヒの頭にメートルの拳骨が落ちた。
「”お前はお客様に何をしているんだ。店に出てくるな! ばあさん、こいつを奥に連れて行け"」
「”はいはい。ほらジェヒ、行きますよ。あとメートル、お店ではジョワイエールとお呼びください、メートル”」
おばあさんの言葉はフランス語だった。
ジョワイエールは寿たちへ優しく微笑むと、ジェヒの腕を掴んだ。
「”ほら、行くよ、バカジェヒ”」
「”いてて、引っ張るなよばあちゃん。コトブキ、ミサカ、後でね。ごゆっくり”」
騒がしいジェヒが引っ込んで、店はまた静寂に包まれた。
メートルが年代物のレコードプレヤーの電源を入れて、針を落とした。静かなジャズがほどよい音量で流れ出した。
「本当に、うちのバカ孫が失礼しました」
「いいえ。先日、一緒にお仕事をしたばかりでしたので、びっくりしました」
メートルは寿と粋に一枚ずつ名刺を差し出した。
「葉山泰蔵です。本日はオーダーメードと承っていますが、よろしかったですか」
「御坂粋です。どうぞよろしくお願いします。デザインは彼女の好みでお願いします」
「オーダーメードで作っていただくの? いいよ、粋、私ここにあるもので……」
「あの、婚約……指輪のつもりなんだけど、駄目かな?」
どうして大事なことを今言うのだろう。
事前に話してくれていれば、心の準備だってできる。それなのに、今言うなんて信じられない。
だからといってここで照れ隠しで怒り出すのも格好が悪い。
信じられないと呆れる気持ちよりも嬉しいほうが大きいのだから、仕方がない。
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