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「ええと、もしかして、まだしっかりお話しになっていないですか? それでしたら、いったん私は席を離れましょうか」
「いいえ。お気遣いありがとうございます。あの、デザイン集みたいなものがあったら見せて貰っても良いですか?」
「少々お待ちください」
メートルは奥に戻って行った。
姿が見えなくなったのを見計らって、寿は粋を見た。
「粋のバカ」
「ごめん。でも、驚かせたくて、実はここも事前に予約入れてたんだ」
粋が広くたくましい肩をすぼめた。
「予約は今日だったの?」
「ううん。クリスマス・イヴだった。本当は今日は休みなんだ。でも事情を話して無理を言って、開けていただいた。どうしても、ここの指輪を寿にプレゼントしたくて。ごめんなさい」
「怒ってないよ。でも、粋はサプライズはしたら駄目って言ったでしょう」
口を尖らせた粋は、叱られた子供のように俯いた。
全く、上手にサプライズできないならしなければいいのに。そう思いつつも、粋の気持ちが嬉しかった。
「ありがとう。すごく嬉しい。でも……」
寿は声を潜めた。
「お値段が心配。とても高いんじゃない。大丈夫?」
「心配するな。俺、結構稼いでる」
やっと粋に元気が戻った。今朝みたいに鼻の穴がヒクついている。
「お待たせしました。芹沢さんの雰囲気に合いそうなものを何冊かお持ちしました。どうぞごゆっくりご覧ください」
布製の古めかしいアルバムには、たくさんのリングの写真が貼られていた。
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