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「“やあ、ジェヒ。お説教は終わったの?”」
きっと、粋なりにできるだけ皮肉を込めたのだろう。やっぱりたどたどしい。
「“お説教なんてされてないよ。俺はずいぶんと可愛がられているからね。それよりも”」
ジェヒは粋に進み寄ると手を握った。
「“嬉しいな、本物だ。ミサカのいたチームに、ヨヌがいるだろう。キム・ヨヌだ”」
粋が目を瞬かせた。
「“親友なんだ。ヨヌからミサカの話を聞いて、会いたいと思ってた”」
黒目が小さくなって、粋がああと大きな声を出した。
「“ヨヌとは仲良くしてたよ。そうか、親友なんだ! レンタル……ローン・ディール(レンタル移籍)だから、今期で韓国に戻るんだよな”」
「“ああ。ミサカともっとプレーがしたかったって言ってた”」
男二人、寿の分からない会話で盛り上がっていた。粋のユナイテッド最後の試合、与井がキム・ヨヌの名前を口に出していたが、どんな話をしていたかは覚えていなかった。
「ああ、ごめん。ヨヌとは同年代で、広瀬も含めて仲良かったんだ。寿にも紹介したかったな。ジェヒと親友だなんて、結構世の中狭いな」
興奮気味に話す粋を見て、本当に仲が良かったんだろうと思った。
粋の周りには人が集まる。阿呆だから、抜けてるから、皆そうやって色々言うが、それだけではない。
サッカーが上手いからだけではない。粋の中の混じりけのない澄んだ部分に惹かれるのだろう。寿のように。
「何か欲しいものはあった? プレゼントするよ」
「ううん。もう胸がいっぱい。早く帰ろう。“じゃあね、ジェヒ”」
「“ああ。また会うね、二人とも”」
外まで見送ってくれたメーテルたちと、写真を撮らせてもらった。粋と二人の写真もジェヒが撮ってくれた。
最後、ジェヒがスマホを持って、五人で写真を撮った。
いつか必ず、またこの店に来たいと思った。
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