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「ありがとう」
角を曲がり手を振る三人の姿が見えなくなってしばらく歩いてから、寿は立ち止まった。
「いきなり婚約なんて、何寝ぼけたことをほざいているんだろうと思った」
「寝ぼけたって……」
粋はショックを受けたようだ。口を開けたまま固まった。
「私は前に言ったよ。結婚の夢は叶わないよって」
「あれって、今現在の話だろ? ……え! これから先もってことなの?」
「そのつもりだった。……今の母は後妻だって話したでしょう。あんまり結婚に夢を持てないんだよ。怖いんだよね、お父さんみたいに離婚するかもしれないと思うと」
母は男を作って寿を捨てたと聞かされて育った。
同じ血が流れている。自分もそうなるかもしれない。そう考えると、怖くて仕方なかった。
「分かった! 俺さ、ヘンクに行ったらもっと料理頑張るし寿の手伝いももっとするよ。掃除は得意だし、絶対にゴロゴロ寝たりして、こいついい加減にしろなんて言わせないから」
粋は、どうも、結婚後の家事の話をしているらしい。そういう意味の話ではないのにな、と思ったが黙っていた。
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