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「実は俺、整理整頓ができなかったんだ。寿がサッカー部に入ってすぐに、皆で部室で怒られたろう。あの部室の原因はたぶん俺だ」
そんなこともあった。
里中に胸倉を掴まれて、寿がブチ切れた時だ。
「俺がしまわないから、後輩たちもそれでいいんだと思って、部室がどんどん汚くなっていったんだと思う。あの時、寿に叱られて、すげえ反省したんだ。そのお陰で、片付けも掃除もできるようになった。だから、見ててよ。俺、ちゃんと合格点もらえるようにマジで頑張る」
粋とだったら、袂を分かつことなく、さっきのメーテルたちのようにいつまでも二人でいられるだろうか。
いつか子供が産まれて、孫が生まれて、そうやって穏やかに幸せに暮らしていけるだろうか。
「……粋、ラーメン食べたい」
「ラーメン? 待てよ、今、めっちゃ大事な俺の決意を……」
「未来は未定だよ。でも、いつか私が誰かと結婚するなら相手は粋だから、指輪を贈ろうと考えてくれてとても嬉しかった。本当にありがとう」
住宅街の真ん中で、粋に抱き締められた。
「指輪できたらすぐに持って行く。次の日試合でも、絶対に持って行く」
「次の日試合の時は駄目だよ。急がなくても大丈夫、いつまででも待てるよ、私。できあがるの楽しみだね。さ、ラーメン食べに行こう! 美味しいところ知ってる?」
離れたと思ったら、粋の顔が近付いてきた。
薄暗くなったとはいえ、さすがにここでキスするのは遠慮したかった。
「駄目! 帰ってからね。ラーメン! ラーメン食べたい!」
口を塞いだ寿の手を取って、粋が手の甲にキスをした。
「与井がラーメン屋は詳しいんだ。電話して聞いてみる」
与井はすぐに電話に出た。何やら大きな声が聞こえてくる。
餃子も食べよう。ニンニク臭くても粋と二人なら大丈夫だ。
左の薬指を見た。まだ指輪はしていないのに、すごくくすぐったい。今までなんとも思わなかったこの指が、とても愛おしかった。
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