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席に戻り、遅いと怒る錬を宥めていたら、あっという間に時間が過ぎた。
食器とトレーを下げて、出発ロビーに向かった。
錬と将がいて良かった。
サッカーの質問を矢継ぎ早に投げかける二人のお陰で、しんみりする暇もなかった。
「じゃあな、姉ちゃん! 寂しくなったら帰って来いよな」
「姉ちゃん、ちゃんとご飯食いなよ」
「ありがとう。今度、遊びにおいで」
生意気な二人の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「何かあったら電話しなさい。何時でも構わないから」
母は夏の太陽のような笑顔で、ニューヨークに発った時と同じ言葉をくれた。
「うん。お母さんも、体に気を付けてね。おばあちゃんなんかに負けないで」
「負けねえよ。俺らいるし。な、将」
「おう。姉ちゃんそこは心配すんな」
頼もしい限りだ。
「元気でね」
母がお守りをくれた。家の近くの神社のお守りだった。
涙が出そうだった。お守りを握り締めて、堪えた。
「皆も。粋もね、元気でね」
「おう。またな」
行きたくない。
でも、行きたい。パリでの暮らしも仕事も楽しみだ。
「またね」
芙季について、保安検査を受け終わってすぐに、錬と将の声が聞こえた。
振り返ると、大きく手を振る姿が見えた。
粋も手を振っている。
寿も、笑顔で手を振った。
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