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飛行機は定刻に離陸した。
きっと、成田の建物のどこかから粋が手を振ってくれているのだろう。どんどんと飛行機は高度を上げて、ついさっきまで寿たちが居た場所は、地図の陸地のようにしか見えなくなった。
粋から離れていく現実を受け入れていたはずなのに、いつまでも涙が止まらなかった。
「こんなに泣くとは思わなかったよ」
シャルル・ド・ゴール国際空港で流れてくる荷物を待っている間、芙季に言われた。空の上、半分は泣いて過ごした。
「早く再会できるといいね」
優しいく頭を撫でられて、また涙が溢れた。
スマホには粋からLINEが届いていた。
──そろそろ到着したかな。今夜は宴会らしい。
添付された写真には、ビールを飲みながらトランプをする皆の顔があった。粋の同級生たちはもちろん、山原と里中、片倉の顔もあった。
──さっき着いたよ。これからタクシーでアパートメントに行くの。飲み過ぎないでね。
すぐに既読がついて、返信が来た。
──もう、絶対にブロックしたりしないから。毎日LINEするよ。
熊が胸を叩くスタンプが一緒に送られてきた。
今回は八咫烏ではないみたいだ。寿はわざと八咫烏がハートを出しているスタンプを送った。
その後すぐ、今度は与井から動画が送られてきた。
パリの時刻は午後三時半を回ったところだ。日本は夜の十一時半、ちょうど酔いも回って楽しいところなのかもしれない。
寿のスーツケースは出てきたが芙季のスーツケースはまだ流れてこなかった。
レーンの前で苛立った様子で腕組みする芙季を見ながら、寿は動画をタップした。
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